ネットワークスペシャリスト試験 平成29年度 秋期 午後2 問2 No.3
【出典:ネットワークスペシャリスト試験 平成29年度 秋期 午後2 問2(一部、加工あり)】
【APの設置方法の検討】
J君は、フロア図面を基に、APの導入台数と設置について検討した。
現在、Y社では、NPCを100Mビット/秒で有線LANに接続しているので、無線LANでも100Mビット/秒程度の速度で通信できるようにしたい。
IEEE 802.11ac規格では、八つのチャネルを束ねる8チャネルボンディング(160MHzの帯域幅)を行えば、アンテナ1本当たり最大約867Mビット/秒の通信が可能である。8チャネルボンディングと8本のアンテナによるMIMO(Multiple Input Multiple Output)で8ストリームの同時伝送を行えば、理論上最大約6.93Gビット/秒で通信できる。②検討しているAP製品は、4チャネルボンディング(80MHzの帯域幅)まで行え、3本のアンテナが搭載されているので、1Gビット/秒以上の通信速度が達成できる。したがって、APに同時接続させるNPCを10台に制限すれば、1台のNPCで100Mビット/秒以上の通信速度を確保できる。そこで、APに同時接続させるNPC台数を10台に制限して、APの導入台数と配置を決めることにした。
現在、営業部には110名の営業員が在籍しており、営業部のオフィスエリアには120名の収容スペースがある。本社の営業員の在籍率は最大で60%程度なので、オフィスエリアを80%に縮小して、削減した20%を接客エリアにすれば接客エリア不足の解消になる。オフィスエリアには、最大で約66名の営業員が同時に在籍することになるが、余裕をもたせて8台のAPを設置し、接客エリアには4台のAPを設置する。合計12台のAPの個別管理は困難なので、無線LANコントローラ(以下、WLCという)も導入する。調査したところ、WLCには複数の方式があったが、次の三つの主要機能をもつ製品を選定することにした。
- 有線LAN経由での複数のAPに対する設定変更、ファームウェアのアップデートなどの一括処理機能
- APの負荷分散制御、PMKの保持などによるハンドオーバ制御機能
- 利用者認証、認証VLANなどのセキュリティ対策機能
選定するWLC製品の概要を次に示す。
WLCは分散処理方式で、通信データの暗号化と復号をAPに任せるものである。WLCでEAP-TLSを利用するときは、APとWLC間でトンネルが設定され、無線LAN端末とWLC間で認証情報の交換が行われる。WLCは、利用者認証を行った後、利用者IDに対応したVLANをAPに設定する認証VLAN機能をもっている。③認証後に行われる無線LAN端末による通信は、WLCを経由しない。
APは、電波の到達性を考慮して天井に設置する。営業部のオフィスエリアに、営業員が自由に着席できる机が均等に配置されたときの、営業部フロアへのAPの設置イメージを図3に示す。
APの設置場所は、営業部フロアでの電波伝搬状態を測定してから決める。このとき、④外来電波による悪影響が発生する可能性があるかどうかを調査し、必要に応じて対策を講じる。電波伝搬状態の測定、外来電波の影響調査、APの設置設計及び設置工事は、業者に委託する。
APは天井に設置することから、天井裏でのケーブル配線が必要になる。APを接続するL2SWを営業部フロアに設置すれば、L2SWと全てのAPとをLANケーブルで直結できる。L2SWのPoE(Power over Ethernet)機能を利用することによって、LANケーブル経由でAPに電源が供給できるので、PoE対応のAPを導入する。このとき、APを収容することになる図1中のL2SW4は、PoE対応の製品に交換し、適切な場所に設置する必要がある。
以上の検討結果を基に、J君は、導入するAP、WLC及びRADIUSサーバ製品を選定した。選定したAP製品の消費電力は最大18Wなので、IEEE 802.3af規格では供給電力が不足することが分かった。そこで、⑤IEEE 802.3at対応のL2SWを1台導入することにした。
次に、J君は、ディジタル証明書の配布方法について検討した。
②について、検討しているAP製品で最大約867Mビット/秒の通信速度を得るのに、最低限必要な周波数帯域幅とアンテナ本数を、ぞれぞれ答えよ。:(周波数帯域幅)80MHz、(アンテナ本数)2本
通信速度について、本文には「IEEE 802.11ac規格では、八つのチャネルを束ねる8チャネルボンディング(160MHzの帯域幅)を行えば、アンテナ1本当たり最大約867Mビット/秒の通信が可能」とあります。
検討しているAP製品は4チャネルボンディングで1/2ですので、アンテナ1本当たり最大約433.5Mビット/秒と考えれば良さそうです。
したがって、アンテナ本数を2本にすれば最大約867Mビット/秒の通信速度が得られます。
このような複数のアンテナで無線通信を高速化する技術のことを、MIMO(Multiple Input Multiple Output)といいます。
③の方式について、無線LAN端末による通信がWLCを経由する方式と比較したときの利点を二つ挙げ、それぞれ40字以内で述べよ。:WLCに通信の負荷が集中するのを抑制することができる。/認証後にWLCに障害が発生しても、その無線LAN端末の通信は継続できる。
無線LAN端末による通信がWLCを経由する方式を考えると、当然ですが、全ての通信がWLCを経由することで、その部分が高負荷となってボトルネックになる可能性があることが挙げられます。
また、WLCが故障した場合、利用者認証はもちろん、その後の通信全てに影響が出てしまいます。
したがって、WLCを経由しない方式の利点は、WLCへの高負荷集中の抑制、および、WLC故障時の影響を抑えることができる点になります。
なお、WLCを経由する方式は、認証後の全ての通信を管理することで通信フローを一元管理することができるという利点があります。
セキュリティの観点で、最近はWLCを経由する方式を推奨するベンダも多いようです。
④の悪影響の内容を、25字以内で述べよ。:電波干渉によって、通信障害が発生する。
無線通信では、利用する周波数帯域が重複すると、電波干渉により正常に通信ができなくなります。
したがって、事前に外来電波の調査を行い、電波干渉を起こさないようにAPの配置や利用する周波数帯域を検討しておく必要があります。
図3の構成でAPを設置して、チャネルボンディングした周波数帯が重ならないようにするためには、少なくとも幾つの周波数帯のグループが必要になるかを答えよ。また、各APのセルを重ねる目的を、25字以内で述べよ。:(周波数帯のグループの数)4、(目的)ハンドオーバをスムーズに行わせるため(又は、APの負荷分散を行わせるため)
図3の構成で、各セルで利用する周波数帯を重ならないように配置すると、最低でも4つの周波数帯のグループが必要であることが分かると思います。
また各APのセルを重ねる目的としては、ハンドオーバをスムーズに行わせるためであることは明白でしょう。
本文に、WLCの主要機能の一つに「APの負荷分散制御、PMKの保持などによるハンドオーバ制御機能」とあるように、ハンドオーバ制御機能に加え、APの負荷分散制御とあります。
これにより、セルが重なっている場所にいる無線LAN端末は双方のAPに接続することが可能で、各セルの負荷状態をモニタしながら適切にAPの負荷分散を行わせることも可能になります。
⑤について、IEEE 802.3at規格のPoE機能の呼称、及び当該L2SWで今回必要になる最小供給電力を、それぞれ答えよ。:(呼称)PoE+、(最小供給電力)216W
PoEの規格については、2003年に標準化されたIEEE 802.3af規格では供給電力15.4W、2009年に標準化されたIEEE 802.3at規格(PoE+)では供給電力30W、そして、2018年に標準化されたIEEE 802.3bt規格(PoE++)では供給電力90Wとなっています。
本文の場合、L2SWに12台のAPが収容されるため、最小供給電力は「18W×12台=216W」となります。