ネットワークスペシャリスト試験 令和4年度 春期 午後2 問1
【出典:ネットワークスペシャリスト試験 令和4年度 春期 午後2 問1(一部、加工あり)】
[ネットワーク冗長化の検討]
次にP主任は、次のようにネットワークの冗長化を考えた。P主任が考えた新たな冗長化構成を図4に示す。
- PCと業務サーバの間のネットワーク機器のうち、PCを収容するL2SW以外の機器障害時に、PCから業務サーバの利用に影響がないようにする。
- 拠点間接続の冗長化のために、新たにN社の広域イーサネットを契約する。その回線速度と接続トポロジは現行のM社広域イーサネットと同等とする。
- 通常は、M社とN社の広域イーサネットの両方を利用する。
- 本社にL2SW13、L2SW14、L3SW12、支社にL2SW23、L2SW24、L3SW22、データセンタにL2SW32〜L2SW35、L3SW32を新たに導入する。
- 業務サーバのNICはチーミングを行う。
- サーバセグメントに接続されているL3SWはVRRPによって冗長化を行う。
- ネットワーク全体の経路制御はこれまでどおり、OSPFを利用し、OSPFエリアは全体でエリア0とする。
全てのL3SWでOSPFを動作させ、冗長経路のOSPFのコストを適切に設定することによって、⑪OSPFのEqual Cost Multi-path機能(以下、ECMPという)が利用できると考え、図4に示すコスト設定を行うことにした。その場合、例えば⑫L3SW11のルーティングテーブル上には、サーバセグメントへの同一コストの複数の経路が確認できる。
K社で利用しているL3SWのベンダにECMPの経路選択の仕様を問い合わせたところ、次の仕様であることが分かった。
- 最大で四つの同一コストルートまでサポートする。
- 動作モードとして、パケットモードとフローモードがある。
- パケットモードの場合、パケットごとにランダムに経路を選択し、フローモードの場合は、送信元IPアドレスと宛先IPアドレスからハッシュ値を計算して経路選択を行う。
P主任は、K社の社内のPCと業務サーバ間の通信における⑬通信品質への影響を考慮して、フローモードを選択することにした。また、フローモードでも⑭複数回線の利用率がほぼ均等になると判断した。
次に、P主任は、サーバセグメントに接続されているL3SWの冗長化について、図5のように行うことにした。
図5において、L3SW31とL3SW32でVRRPを構成し、L3SW31がVRRPマスタとなるように優先度を設定する。また、L3SW31において、⑮図5中のa又はbでの障害をトラッキングするようにVRRPの設定を行う。これによって、a又はbのインタフェースでリンク障害が発生した場合でも、業務サーバからPCへのトラフィックの分散が損なわれないと考えた。
P主任は、以上の技術項目の検討結果について情報システム部長に報告し、SSL-VPN導入、N社とS社サービス利用及びネットワーク冗長化について承認された。
下線⑪について、P主任がECMPの利用を前提にしたコスト設定を行う目的を、30字以内で答えよ。:M社とN社の広域イーサネットの両方を利用すること
「全てのL3SWでOSPFを動作させ、上長経路のOSPFのコストを適切に設定することによって、⑪OSPFのEqual Cost Multi-path機能(以下、ECMPという)が利用できると考え、図4に示すコスト設定を行うことにした。」
L3SWで動作するOSPFの範囲を確認すると、本社、支社、データセンタ間のM社、N社の2つの広域イーサネット網を経由する構成となっています。
そして、2つの広域イーサネット向けのポートには、いずれのL3SWでもコスト「50」が割り振られています。
ECMPはその名のとおり、同コストとすることで、複数のネットワークにパケットを負荷分散して転送する仕組みのことです。
問題文に「通常は、M社とN社の広域イーサネットの両方を利用する。」とあるように、ECMPにより、2つの広域イーサネット向けのポートを同コストにすることで、両回線に負荷分散して使用することが可能になります。
下線⑫について、経路数とそのコストをそれぞれ答えよ。:(経路数)4、(コスト)70
「その場合、例えば⑫L3SW11のルーティングテーブル上には、サーバセグメントへの同一コストの複数の経路が確認できる。」
L3SW11からサーバセグメントへの経路を具体的に見ていきますが、この時、L3レベルのルーティング処理が行われるノード、つまり、L3SWが対象でありL2SWは無視します。
また、コストはL3SWの出力ポート側の合計となります。
- L3SW11〜(50)〜M社広域イーサネット〜L3SW31〜(20)〜L2SW31→コスト:70
- L3SW11〜(50)〜M社広域イーサネット〜L3SW32〜(20)〜L2SW32→コスト:70
- L3SW11〜(50)〜N社広域イーサネット〜L3SW31〜(20)〜L2SW31→コスト:70
- L3SW11〜(50)〜N社広域イーサネット〜L3SW32〜(20)〜L2SW32→コスト:70
上記のとおり、経路数は4で、コストは全て70となります。
下線⑬について、フローモードの方が通信品質への影響が少ないと判断した理由を35字以内で述べよ。:フローモードはパケット到着順序の逆転が起こりにくいから
「P主任は、K社の社内のPCと業務サーバ間の通信における⑬通信品質への影響を考慮して、フローモードを選択することにした。」
パケットモードとフローモードの特徴を整理します。
- パケットモード:「パケット毎にランダムに経路を選択」→送信元と宛先が同一の通信でも経路が異なる
- フローモード:「送信元IPアドレスと宛先IPアドレスからハッシュ値を計算して経路選択を行う」→送信元と宛先が同一の通信では常に経路が固定される
社内のPCと業務サーバ間の通信、つまり、送信元と宛先が同一の通信において経路が異なる場合と固定の場合の通信品質の影響を考えます。
通信品質は、パケットロス、遅延、揺らぎなどの事象となって現れてきます。
そして、それぞれの経路は、回線帯域や機器単体の処理能力によって通信品質が異なります。
したがって、送信元と宛先が同一の通信においては、パケット毎に通信品質が異なる経路を通るとパケットの到着順序が不安定になる可能性があります。
これによってパケットを受信した機器側では通信データの組み立てに支障が出て、最悪の場合はデータ欠落となります。
回答内容としてはパケット到着順序の逆転の発生を挙げていますが、他にも書き方があると思われ、なかなか難しい問題でした。
下線⑭について、利用率がほぼ均等になると判断した理由をL3SWのECMPの経路選択の仕様に照らして、45字以内で述べよ。:送信元IPアドレスと宛先IPアドレスから計算したハッシュ値が偏らないから
「また、フローモードでも⑭複数回線の利用率がほぼ均等になると判断した。」
フローモードは「送信元IPアドレスと宛先IPアドレスからハッシュ値を計算して経路選択を行う」ものです。
PCと業務サーバ間の通信では、送信元IPアドレスがPC、宛先IPアドレスが業務サーバとなりますが、それぞれの組み合わせ毎にハッシュ値が異なり、それによって選択する経路が変わってきます。
そしてハッシュ値の数が多い、つまり、組み合わせの数が多いほど、複数の経路が均等に利用されることになります。
問題文を見返すと、PCや業務PCの数は記載されていませんが、テレワークを行う利用者は最大200人ということを考えると、少なくてもPCは100台以上はありそうです。
ただし、この部分はあくまでも推測になるため、回答としては問題文の記述を抜き取って上記のような回答とすべきでしょう。
下線⑮について、この設定によるVRRPの動作を”優先度”という用語を用いて40字以内で述べよ。:インタフェースの障害を検知した時にL3SW31のVRRPの優先度を下げる。
「また、L3SW31において、⑮図5中のa又はbでの障害をトラッキングするようにVRRPの設定を行う。」
a又はbでの障害をトラッキングするとは、状態を追跡、つまり検知して、その後のアクションにつなげる動作を言います。
トラッキングしない場合、a又はbで障害が発生するとどうなるでしょうか。
aで障害が発生すると、L3SW31はOSPFが稼働するbで通信しますが、業務サーバ側のVRRPではL3SW31とL3SW32間の通信は維持され、L3SW31がマスタであることには変わりありません。
そして、この場合N社広域イーサネットのみしか使用されなくなります。
ここで、a又はbでの障害に応じてVRRPのマスタをL3SW32に移行できれば、M社とN社広域イーサネットを均等に使用する状態を維持できます。
したがって、インタフェースの状態を検知してマスタ側のVRRPの優先度を下げることで、マスタの移行を促すようにします。