今回は、最近耳にする機会も増えてきた「FIDO(ファイド)」について、情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんに向けて、わかりやすく解説していきたいと思います。
「FIDOって何?」「パスキーってFIDOとどう関係があるの?」といった疑問をスッキリ解消できるよう、丁寧に解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いくださいね!
情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2 問7
【出典:情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2(一部、加工あり)】
あるIdP(Identity Provider)は、パスキー(Passkey)認証をサポートしており、利用者Aは、このIdPのFIDO認証器として、自分のスマートフォンの生体認証機能を登録してある。また、WebサーバBは、このIdPを使ってログインが可能である。利用者AのWebブラウザからWebサーバBにアクセスする際、利用者Aの生体情報を受信するもの、受信しないものの組合せのうち、適切なものはどれか。
FIDOって、そもそも何?
FIDOは「Fast IDentity Online」の略で、直訳すると「素早いオンライン認証」といった意味になります。簡単に言うと、パスワードに依存しない、より安全で便利な認証の仕組みを提供するための国際的な標準仕様を策定している団体、およびその仕様群のことを指します。
これまで、私たちはWebサービスにログインする際、ユーザー名とパスワードの組み合わせを使うのが一般的でしたよね。でも、このパスワード認証には、セキュリティ上の大きな課題があるんです。
なぜFIDOが必要とされているの?パスワード認証の限界と背景・経緯
私たちが普段使っているパスワード認証。実は、以下のような弱点があります。
- 推測されやすい、使い回されやすい: 誕生日や単純な文字列など、推測されやすいパスワードを使っていたり、複数のサービスで同じパスワードを使い回したりしていませんか?これらは不正アクセスの温床となります。
- フィッシング詐欺に弱い: 偽のWebサイトに誘導され、パスワードを入力してしまうことで、情報が盗まれてしまう可能性があります。
- パスワードリスト攻撃の標的に: どこか別のサービスから流出したIDとパスワードのリストを使って、他のサービスへの不正ログインを試みる攻撃です。パスワードの使い回しをしていると、この攻撃の被害に遭いやすくなります。
- 覚えるのが大変、管理が面倒: 強固なパスワードをサービスごとに覚えるのは至難の業です。パスワードマネージャーを使うにしても、その管理自体が負担になることもあります。
このようなパスワード認証の課題を解決し、より安全で、かつ使いやすい認証の仕組みを実現するために、2013年にFIDO Allianceが設立され、FIDOの仕様策定が始まりました。
FIDOの目標は、これらの課題を克服し、インターネット上のサービス利用者が、より安全に、そしてストレスなく認証を行えるようにすることなんです。
FIDO認証の仕組み:パスワードなしでどうやって認証するの?
FIDO認証の核となるのは、「公開鍵暗号方式」と「生体認証(指紋、顔など)やPINコード」の組み合わせです。
従来のパスワード認証では、サーバーにパスワードのハッシュ値が保存され、認証時に照合が行われます。一方FIDOでは、このようなサーバー側に直接的なパスワードを保存しないのが大きな特徴です。
FIDO認証では、主に以下の3つの要素が連携して認証を行います。
- FIDO認証器(Authenticator): スマートフォン、PC、セキュリティキーなど、ユーザーの生体情報(指紋、顔など)やPINコードを使い、認証を行うデバイスです。公開鍵と秘密鍵のペアを生成し、秘密鍵を安全に管理します。
- FIDOクライアント(Client): Webブラウザなど、FIDO認証器と連携して認証要求を IdP や RP に伝達する役割を担います。
- RP(Relying Party: 依拠当事者): Webサービスを提供するサーバーのことです。ユーザー認証をIdPに依頼し、その結果を受け取ります。
- IdP(Identity Provider: IDプロバイダ): ユーザーの認証情報を管理し、認証サービスを提供するサーバーのことです。GoogleやApple、Microsoftなどが提供する認証サービスがこれに該当します。
認証の流れはざっくりと以下のようになります。
- ユーザーがWebサービス(RP)にアクセスし、ログインを試みます。
- RPはIdPに認証を依頼します。
- IdPはユーザーのFIDO認証器に対して、チャレンジ(ランダムなデータ)を送信します。
- ユーザーはFIDO認証器(例: スマートフォン)の生体認証機能(指紋認証など)を使って本人確認を行います。
- FIDO認証器は、秘密鍵を使ってチャレンジに署名し、その署名と公開鍵をIdPに送り返します。
- IdPは受け取った公開鍵で署名を検証し、本人であることを確認します。
- IdPはRPに認証成功の情報を伝えます。
- RPはユーザーのログインを許可します。
この仕組みのポイントは、秘密鍵が認証器の外に出ることはなく、生体情報も認証器の中だけで処理されるため、フィッシングやパスワードリスト攻撃に非常に強くなる点です。
パスキー(Passkey)とFIDOの関係
「パスキー(Passkey)」という言葉も最近よく聞くようになりましたよね。パスキーは、まさにFIDO技術に基づいた、パスワード不要の新しい認証方式なんです。
パスキーは、FIDOの主要な仕様である「WebAuthn(Web Authentication)」と「CTAP(Client to Authenticator Protocol)」をベースにしています。
従来のFIDO認証では、認証器が特定のデバイスに紐付いているため、デバイスを買い替えた場合や、複数のデバイスで同じサービスを利用したい場合に、認証器の再登録が必要になるなどの課題がありました。
パスキーは、この課題を解決するために、秘密鍵と公開鍵のペアをクラウド上で同期し、複数のデバイスで同じ認証情報を利用できるようにする仕組みです。これにより、より利便性が向上し、まさに「パスワードなしで、どのデバイスからでも認証できる」世界が実現されつつあります。
FIDOの導入事例と今後の動向
FIDO認証は、すでに多くの大手企業やサービスで導入が進んでいます。
- Google、Apple、Microsoft: これらのテックジャイアントは、自社のサービスでパスキー/FIDO認証を積極的に導入・推進しています。
- オンラインバンキング、ECサイト: セキュリティが特に重視される分野でも、FIDO認証の導入が進み、より安全な取引が実現されています。
今後は、FIDO認証がWebサービスだけでなく、IoTデバイスやスマートホームなど、あらゆる「つながる」デバイスの認証基盤として普及していくと考えられています。パスワードが過去のものとなり、指紋や顔認証でシームレスにログインできるのが当たり前の世界が、もう目の前まで来ているんです。
課題と対策:FIDOの普及を阻むものは?
FIDOは非常に有望な技術ですが、普及に向けていくつかの課題もあります。
- ユーザーの理解と普及: パスワードに慣れているユーザーにとって、新しい認証方法であるFIDOやパスキーの仕組みを理解し、利用を開始するまでのハードルがまだ存在します。
- 既存システムとの連携: 既存の多くのWebサービスはパスワード認証を前提に構築されているため、FIDOへの移行にはシステムの改修や連携が必要となります。
- 認証器の紛失・故障対策: スマートフォンなどの認証器を紛失したり、故障したりした場合のリカバリー手段をしっかりと確保する必要があります。
これらの課題に対しては、以下のような対策が進められています。
- わかりやすい啓発活動: FIDOやパスキーのメリットをユーザーに伝え、利用を促すための啓発活動が重要です。
- 段階的な導入支援: 既存システムとのスムーズな連携を可能にするためのツールやガイドラインが提供されています。
- 複数のリカバリーオプション: 認証器の紛失時に備え、複数のFIDO認証器を登録できるようにしたり、セカンドファクタ認証などの代替手段を用意したりすることで、利便性と安全性を両立させます。
まとめ:FIDOで未来の認証を体験しよう!
FIDOは、パスワード認証の課題を解決し、より安全で便利なオンライン認証を実現する画期的な技術です。情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんにとって、FIDOの知識はこれからのセキュリティ分野で必須のものとなるでしょう。
ぜひ、皆さんもご自身の利用しているサービスでFIDO認証やパスキーが使えるか確認してみてください。きっと、その便利さと安全性に驚くはずですよ!
これからも、aolaniengineerは皆さんの学びをサポートする記事を発信していきますので、どうぞお楽しみに!
【問題解説】利用者AのWebブラウザからWebサーバBにアクセスする際の生体情報受信について
さて、FIDOに関する知識を深めたところで、提供いただいた問題について考えてみましょう。
問題: あるIdP(Identity Provider)は、パスキー(Passkey)認証をサポートしており、利用者Aは、このIdPのFIDO認証器として、自分のスマートフォンの生体認証機能を登録してある。また、WebサーバBは、このIdPを使ってログインが可能である。利用者AのWebブラウザからWebサーバBにアクセスする際、利用者Aの生体情報を受信するもの、受信しないものの組合せのうち、適切なものはどれか。
選択肢:
解説のポイント:
FIDO認証(特にパスキー認証)における生体情報の扱いは、最も重要なセキュリティ特性の一つです。
- FIDO認証の生体情報はどこで処理されるか?
FIDO認証では、ユーザーの生体情報(指紋、顔など)は、FIDO認証器(今回の場合は利用者Aのスマートフォン)の中だけで処理されます。これは、認証器に内蔵されたセキュアエレメントなどの安全な領域で完結し、外部に漏れることがないように設計されています。 - Webブラウザは生体情報を受信するか?
Webブラウザは、FIDO認証器(スマートフォン)と連携して認証プロセスを進めますが、生体情報そのものを受信することはありません。ブラウザは認証器に対して認証要求を送り、認証器から「認証が成功した」という結果(署名データなど)を受け取るだけです。 - WebサーバB(RP)は生体情報を受信するか?
WebサーバBは、利用者Aがログインしたいサービスを提供する依拠当事者(RP)です。RPは認証の依頼をIdPに行い、IdPからの認証結果を受け取ります。ユーザーの生体情報がWebサーバBに送られることはありません。 - IdP(Identity Provider)は生体情報を受信するか?
IdPは認証サービスを提供するサーバーですが、FIDO認証では、ユーザーの生体情報そのものがIdPに送られることはありません。IdPはFIDO認証器から送られてきた「署名データ」と、事前に登録された「公開鍵」を使って認証の正当性を検証します。生体情報そのものを受信するわけではありません。
結論:
FIDO認証の最も重要なセキュリティ特性は、生体情報がFIDO認証器(今回は利用者Aのスマートフォン)の外に出ることはないという点です。Webブラウザ、WebサーバB、IdPのいずれも、利用者Aの生体情報そのものを受信することはありません。
したがって、正解は、すべての要素が「受信しない」とされている選択肢です。
正解:ア
この問題は、FIDO認証の根幹にあるセキュリティ設計、特に「どこで生体情報が処理され、どこには送られないのか」を理解しているかを問う良問です。情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す上で、このような認証の仕組みを深く理解しておくことは非常に重要です。
いかがでしたでしょうか?FIDOに関する理解が深まり、問題もスッキリ解決できたなら幸いです! これからも一緒に、情報セキュリティの学びを深めていきましょうね!