【情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2 問9】量子暗号で未来のセキュリティを覗き見!

今回は、情報セキュリティの最先端技術である「量子暗号」について、情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストの資格取得を目指す皆さんに、わかりやすく解説していきます。なんだか難しそうな響きですが、未来のセキュリティを支える重要な技術なので、一緒にその仕組みを紐解いていきましょう!


情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2 問9

【出典:情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2(一部、加工あり)】

 量子暗号の特徴として、適切なものはどれか。

ア 暗号化と復号の処理を、量子コンピュータを用いて行うことができるので、従来のコンピュータでの処理に比べて大量のデータの秘匿を短時間で実現できる。

イ 共通鍵暗号方式であり、従来の情報の取扱量の最小単位であるビットの代わりに量子ビットを用いることによって、高速なデータ送受信が実現できる。

ウ 量子雑音を用いて共通鍵を生成し、公開鍵暗号方式で共有することによって、解読が困難な秘匿通信が実現できる。

エ 量子通信路を用いて安全に共有した乱数列を使い捨ての暗号鍵として用いることによって、原理的に第三者に解読されない秘匿通信が実現できる。

1. 量子暗号って、そもそも何?

量子暗号(Quantum Cryptography)は、量子力学の原理を応用した次世代の暗号技術です。現在の主流である公開鍵暗号方式や共通鍵暗号方式とは異なり、盗聴者が存在すると通信内容に変化が生じるという、量子の性質を利用することで、原理的に盗聴が不可能な秘匿通信を実現しようとするものです。

「原理的に」というところがポイントで、これはつまり、どんなに高性能なコンピュータを使っても、将来的に量子コンピュータが実用化されたとしても、そのセキュリティが破られることはない、ということです。なんだかワクワクしてきませんか?

2. なぜ今、量子暗号が注目されているの? その背景・経緯

現在、私たちが使っている多くの暗号技術は、RSA暗号に代表される「素因数分解の困難さ」や「離散対数問題の困難さ」といった数学的な問題を解くことが難しい、という前提に基づいています。しかし、近年、急速な進歩を遂げているのが「量子コンピュータ」です。

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかる計算も、短時間で解くことができる可能性を秘めています。もし量子コンピュータが実用化されれば、現在使われている多くの公開鍵暗号が簡単に解読されてしまう、という「量子コンピュータ耐性」の問題が浮上してきました。

この量子コンピュータ時代のセキュリティリスクに対応するために、量子コンピュータでも解読できない、あるいは解読が極めて困難な「耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography: PQC)」の研究開発が進められています。その中でも、情報理論的な安全性を保証する量子暗号は、究極のセキュリティ技術として大きな注目を集めているんです。

3. 量子暗号の仕組みを探る:BB84プロトコルって?

量子暗号にはいくつかの方式がありますが、最も代表的なものの一つが「BB84プロトコル」です。これは、1984年にCharles BennettとGilles Brassardによって提案された方式で、その仕組みは以下のようになっています。

  1. 光子の偏光状態を利用: 量子暗号では、情報の最小単位である「量子ビット(qubit)」として、光子(光の粒)の「偏光状態」が利用されます。光の偏光には、水平・垂直・右回り・左回りなど、いくつかの状態があります。
  2. 鍵の生成と送受信:
    • 情報を送る側(アリス)は、ランダムに光子の偏光状態を選び、それを光ファイバーなどの量子通信路を通して受け取る側(ボブ)に送ります。
    • ボブは、こちらもランダムにフィルターを選んで光子の偏光を測定します。
    • アリスとボブは、後で通常の通信路(公開チャネル)を使って、どの偏光状態を選んだか(アリスの場合)と、どのフィルターを使ったか(ボブの場合)をそれぞれ公開します。
    • お互いが同じ偏光状態とフィルターを選んだ場合、その情報は一致し、秘密鍵の一部として採用されます。
  3. 盗聴の検出: もし途中で第三者(イブ)が盗聴しようとすると、イブが光子の偏光状態を測定する際に、その光子の状態が変化してしまいます(不確定性原理非クローニング定理)。これにより、アリスとボブが照合する鍵の情報に誤りが生じ、盗聴があったことが検出できるのです。

このように、量子暗号は「盗聴しようとすると必ず痕跡が残る」という量子の性質を巧みに利用することで、究極の安全性を実現しているわけです。

4. 量子暗号の活用事例

量子暗号はまだ研究開発段階にある部分も多いですが、すでに具体的な活用事例も出てきています。

  • 金融機関のセキュア通信: 銀行間の基幹ネットワークや、高頻度取引(HFT)におけるセキュリティ確保のため、量子暗号技術の導入が検討・実証されています。
  • 国家間の機密通信: 各国の政府機関や軍事組織において、最高レベルの機密情報を扱う通信に量子暗号の導入が進められています。
  • 医療情報の保護: 患者の個人情報や医療データを安全にやり取りするため、量子暗号の適用が期待されています。
  • 重要インフラの制御システム: 電力網や交通システムなどの重要インフラの制御システムにおけるサイバー攻撃対策として、量子暗号が注目されています。

5. 量子暗号の課題と対策

夢のような技術に見える量子暗号ですが、実用化に向けてはいくつかの課題も存在します。

  • 量子通信路の構築: 量子ビットを安定して長距離伝送するには、専用の光ファイバーや衛星通信など、特殊な通信路が必要です。現在の通信インフラへの導入は、コスト面や技術面で課題があります。
  • 機器の小型化・低コスト化: 量子暗号装置はまだ大型で高価なものが多く、より普及させるためには小型化・低コスト化が必須です。
  • 既存システムとの連携: 既存のネットワークシステムや暗号システムとのスムーズな連携も、導入を促進するための重要な課題です。
  • 量子コンピュータとの共存: 量子暗号が本格的に普及するまでの間、量子コンピュータの脅威から既存の暗号資産を守るための「耐量子暗号(PQC)」との併用など、段階的な移行戦略も検討されています。

これらの課題に対しては、各国で研究開発が進められており、例えば、量子中継器の開発による長距離伝送の実現や、チップ化による装置の小型化などが期待されています。

6. 今後の動向:未来のセキュリティを担う量子暗号

量子暗号は、まだ発展途上の技術ですが、そのポテンシャルは計り知れません。世界中で研究開発競争が激化しており、今後は以下のような動きが加速すると考えられます。

  • 標準化の進展: 国際電気通信連合(ITU-T)や米国国立標準技術研究所(NIST)などでの標準化に向けた議論が活発化し、相互運用性のある技術が確立されていくでしょう。
  • インフラ整備の加速: 各国政府や通信事業者が、量子通信網の構築に積極的に投資する動きが加速すると予想されます。
  • 量子インターネットの実現: 量子コンピュータ同士を接続し、より高度な量子計算や量子通信を行う「量子インターネット」の構築に向けた研究も進められています。これが実現すれば、私たちの情報セキュリティは劇的に進化する可能性があります。

まとめ

今回は、量子コンピュータ時代のセキュリティを担う「量子暗号」について解説しました。量子力学の不思議な原理を応用し、原理的に盗聴不可能な通信を実現するこの技術は、これからの情報セキュリティを語る上で避けては通れないテーマです。

情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんにとって、最先端技術への知見は不可欠です。ぜひ今回の記事で得た知識を、これからの学習や実務に役立てていただけると嬉しいです!


問題解説

それでは、先ほどの量子暗号に関する問題を解説していきましょう。


** 量子暗号の特徴として、適切なものはどれか。**

 暗号化と復号の処理を、量子コンピュータを用いて行うことができるので、従来のコンピュータでの処理に比べて大量のデータの秘匿を短時間で実現できる。

 共通鍵暗号方式であり、従来の情報の取扱量の最小単位であるビットの代わりに量子ビットを用いることによって、高速なデータ送受信が実現できる。

 量子雑音を用いて共通鍵を生成し、公開鍵暗号方式で共有することによって、解読が困難な秘匿通信が実現できる。

 量子通信路を用いて安全に共有した乱数列を使い捨ての暗号鍵として用いることによって、原理的に第三者に解読されない秘匿通信が実現できる。


【解説】

この問題は、量子暗号の基本的な特徴を理解しているかを問うものです。一つずつ選択肢を見ていきましょう。

ア: 量子暗号は、量子コンピュータを用いて暗号化・復号を行うものではありません。量子力学の原理を利用して「鍵配送」を安全に行う技術です。データの暗号化・復号自体は、その安全に配送された鍵を使って既存の暗号方式(例えば共通鍵暗号方式)で行われることが一般的です。また、量子コンピュータは、現在のコンピュータで困難な特定の計算を高速化するものであり、大量のデータの秘匿を「短時間で実現」することが量子暗号の主たる目的ではありません。

イ: 量子暗号は、共通鍵暗号方式の鍵配送に量子ビット(光子の偏光など)を用いますが、量子ビットを用いることで「高速なデータ送受信」が実現できるわけではありません。むしろ、現在の技術では通常のデータ通信よりも速度は限定的です。量子暗号の主な目的は、鍵の安全な共有であり、通信速度の向上ではありません。

ウ: 量子暗号は、量子雑音(量子力学的な不確定性)を用いて共通鍵を生成しますが、その共通鍵を「公開鍵暗号方式で共有する」わけではありません。量子暗号の最大の特徴は、量子通信路を用いることで、盗聴があれば必ず検出できるという原理に基づき、直接的に共通鍵を安全に共有する点にあります。公開鍵暗号方式は、量子コンピュータによって解読されるリスクがあるため、量子暗号が解決しようとしている問題とは異なります。

エ: この選択肢が適切です。量子暗号(特にBB84プロトコルなど)は、量子通信路(光ファイバーなど)を介して、光子の偏光状態などを利用することで、盗聴があった場合にそれが必ず検出されるという量子力学の原理に基づき、安全に乱数列(共通鍵として使用する使い捨ての鍵)を共有します。そして、その共有された乱数列を「ワンタイムパッド(使い捨て暗号)」のように用いることで、原理的に第三者に解読されない秘匿通信を実現します。これは「情報理論的安全性」と呼ばれ、いかなる計算能力を持つ攻撃者に対しても安全性が保証されることを意味します。

したがって、量子暗号の最大の特徴を正しく説明しているのはエです。

【正解】エ

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