今回は、情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんにとって、ぜひ押さえておきたいキーワード「SOAR」について、わかりやすく解説していきますね!
セキュリティに関する技術は日進月歩。新しい脅威に対応するためには、私たちエンジニアも常に最新の知識をアップデートしていく必要があります。SOARもその一つ。セキュリティ運用の効率化に大きく貢献する考え方なので、一緒に学んでいきましょう!
情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2 問11
【出典:情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 秋期 午前2(一部、加工あり)】
SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の説明はどれか。
ア 脅威インテリジェンスの活用、セキュリティ運用の自動化及びインシデント対応の効率化を行う技術
イ 全ての利用者、デバイス、接続元を信頼できないものとして捉え、重要な情報資産やシステムに対するアクセスの正当性や安全性の検証を自動化することによって脅威を防ぐ考え方
ウ 組織間でサイバー攻撃に関する情報を効率的に交換するために、脅威情報構造化記述形式で記述された情報の交換を自動化するためのプロトコル仕様
エ ファイアウォール、マルウェア対策製品、侵入検知製品など複数のセキュリティ製品のログの集約及び相関分析を自動化するための専用装置
1. SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の定義
SOARとは、Security Orchestration, Automation and Response の頭文字をとったもので、「セキュリティオーケストレーション、自動化、およびレスポンス」と訳されます。
なんだか難しそうに聞こえますが、簡単に言うと、「バラバラに存在するセキュリティツールや情報を連携させて、セキュリティインシデントへの対応を自動化・効率化する仕組み」のことなんです。
オーケストラの指揮者のように、複数の楽器(セキュリティツール)を操って、美しいハーモニー(効率的なセキュリティ運用)を奏でるイメージですね!
2. なぜSOARが必要なの? 背景・経緯
近年、サイバー攻撃はますます巧妙化・高度化しており、その数も爆発的に増えています。それに伴い、セキュリティ担当者の業務負荷は増大する一方です。
- 人手不足の深刻化: セキュリティ人材は世界的に不足しており、限られた人数で膨大なセキュリティアラートに対応しなければなりません。
- アラート過多による疲弊: 毎日大量に発生するセキュリティアラートの中から、本当に対応すべきものを見つけるのは至難の業です。誤検知も多く、担当者は疲弊してしまいます。
- 対応の遅延: インシデント発生から対応までの時間が長くなればなるほど、被害は拡大してしまいます。迅速な対応が求められます。
こうした課題を解決するために登場したのがSOARなんです。限られたリソースで、いかに効率的かつ迅速にセキュリティインシデントに対応するか、というニーズが高まったことが、SOARが注目されるようになった大きな背景です。
3. SOARの仕組み:「オーケストレーション」「自動化」「レスポンス」の三位一体!
SOARは、その名の通り「オーケストレーション」「自動化」「レスポンス」の3つの要素から成り立っています。
- Orchestration(オーケストレーション):セキュリティツール連携の司令塔!
複数のセキュリティ製品(ファイアウォール、IDS/IPS、EDR、SIEMなど)やITシステム(チケット管理システム、資産管理システムなど)を連携させ、情報の一元管理と連携を可能にします。まるでオーケストラの指揮者のように、それぞれのツールが最適なタイミングで動くように指示を出す役割を果たします。 - Automation(自動化):人の手を煩わせない!
セキュリティインシデント発生時の初動対応や情報収集、分析など、定型的なタスクを自動化します。例えば、「不審なIPアドレスを検知したら、自動的にファイアウォールでブロックする」「マルウェアが発見されたら、感染端末をネットワークから隔離する」といったことが可能になります。これにより、手作業によるミスを減らし、対応時間を大幅に短縮できます。 - Response(レスポンス):迅速な対応を支援!
自動化されたプロセスに加え、複雑なインシデントや緊急性の高いインシデントに対しては、セキュリティ担当者が迅速に意思決定し、対応できるよう支援します。プレイブック(後述)を活用することで、対応手順を標準化し、誰でも一定以上の品質で対応できるようにします。
これらの要素が組み合わさることで、セキュリティ運用の効率化とインシデント対応能力の向上が図られるわけです。
4. SOARの事例:実際のセキュリティ運用でどう役立つ?
具体的な活用事例を見てみましょう。
- フィッシングメール対策の自動化:
- 従業員から不審なメールの報告があった場合、SOARが自動的にメールの件名、送信元、URLなどを分析。
- 既知の脅威と一致すれば、自動的にメールを削除したり、該当URLへのアクセスをブロックしたりする。
- 疑わしい場合は、担当者へ詳細調査を依頼し、その情報も自動的にチケット化して管理する。
- マルウェア感染時の迅速な対応:
- EDR(Endpoint Detection and Response)が不審なプロセスを検知。
- SOARがその情報をSIEM(Security Information and Event Management)から受け取り、他のセキュリティログと相関分析。
- マルウェア感染と判断されれば、自動的に該当端末をネットワークから隔離。
- 同時に、チケット管理システムにインシデントを起票し、担当者に通知。
これらのように、SOARは、セキュリティ担当者が本来集中すべき分析や高度な判断に時間を割けるように、定型的な作業を肩代わりしてくれる心強い味方なんです。
5. SOAR導入の課題と対策:万能ではないけれど、工夫次第!
SOARは素晴らしいツールですが、導入にはいくつかの課題もあります。
- 導入コストと運用コスト: SOAR製品の導入にはそれなりの費用がかかり、運用にも専門知識が必要です。
- 対策: 費用対効果を十分に検討し、自社の規模やセキュリティレベルに合った製品を選ぶことが重要です。まずはスモールスタートで始め、徐々に範囲を広げていくのも良いでしょう。
- 既存システムとの連携: 導入しているセキュリティ製品やITシステムとの連携がスムーズに行かない場合があります。
- 対策: 導入前に、連携が必要なシステムを洗い出し、SOAR製品がそれらをサポートしているか、API連携が可能かなどを十分に確認する必要があります。
- プレイブックの作成と運用: SOARを最大限に活用するためには、インシデント対応の手順を定めた「プレイブック」を事前に作成し、定期的に見直す必要があります。
- 対策: セキュリティ担当者だけでなく、関連部署とも連携し、現実的で効果的なプレイブックを作成することが重要です。一度作ったら終わりではなく、新しい脅威や状況の変化に合わせて常に更新していく姿勢が求められます。
- 過度な自動化によるリスク: 全てを自動化しようとすると、誤検知や誤対応のリスクもあります。
- 対策: 人の手による最終確認や判断を組み込むなど、自動化と手動介入のバランスを適切に保つことが大切です。特に、影響範囲が大きい対応については、慎重な検討が必要です。
6. SOARの今後の動向:AIとの融合でさらに進化!
SOARは今後も進化を続けていくことが予想されます。特に注目されているのが、AI(人工知能)や機械学習との融合です。
- AIによる脅威分析の高度化: AIが大量のログデータから異常パターンを自動で検知したり、未知の脅威を予測したりすることで、より早期かつ的確なインシデント対応が可能になります。
- 自動対応の精度向上: AIが過去のインシデント対応履歴から最適な対処法を学習し、自動対応の精度をさらに高めることが期待されます。
- 脅威インテリジェンスとの連携強化: 最新の脅威情報(脅威インテリジェンス)を自動的にSOARに取り込み、よりタイムリーな対策を講じることが可能になります。
このように、SOARはセキュリティ運用の未来を担う重要な技術であり、情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんには、ぜひ理解を深めておいてほしい分野です。
【問題解説】SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の説明はどれか。
さて、SOARについて理解が深まったところで、冒頭の問題に挑戦してみましょう!
SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の説明はどれか。
ア 脅威インテリジェンスの活用、セキュリティ運用の自動化及びインシデント対応の効率化を行う技術
イ 全ての利用者、デバイス、接続元を信頼できないものとして捉え、重要な情報資産やシステムに対するアクセスの正当性や安全性の検証を自動化することによって脅威を防ぐ考え方
ウ 組織間でサイバー攻撃に関する情報を効率的に交換するために、脅威情報構造化記述形式で記述された情報の交換を自動化するためのプロトコル仕様
エ ファイアウォール、マルウェア対策製品、侵入検知製品など複数のセキュリティ製品のログの集約及び相関分析を自動化するための専用装置
皆さん、答えはもう分かりましたよね?
正解は…
ア 脅威インテリジェンスの活用、セキュリティ運用の自動化及びインシデント対応の効率化を行う技術
です!
なぜ「ア」が正解なのか?
これまでの説明で見てきたように、SOARは「自動化(Automation)」と「インシデント対応の効率化(Response)」が核となる技術です。また、脅威インテリジェンス(外部の最新の脅威情報)を取り込むことで、より高度な判断や自動化が可能になるため、この選択肢がSOARの最も的確な説明となります。
その他の選択肢について
- イ 全ての利用者、デバイス、接続元を信頼できないものとして捉え、重要な情報資産やシステムに対するアクセスの正当性や安全性の検証を自動化することによって脅威を防ぐ考え方
これは「ゼロトラスト(Zero Trust)」の考え方ですね。SOARとは異なる概念です。 - ウ 組織間でサイバー攻撃に関する情報を効率的に交換するために、脅威情報構造化記述形式で記述された情報の交換を自動化するためのプロトコル仕様
これは「STIX(Structured Threat Information Expression)」や「TAXII(Trusted Automated Exchange of Indicator Information)」といった、脅威情報の共有に関する技術やプロトコルの説明に近いです。 - エ ファイアウォール、マルウェア対策製品、侵入検知製品など複数のセキュリティ製品のログの集約及び相関分析を自動化するための専用装置
これは「SIEM(Security Information and Event Management)」の機能の一部、またはそれに近い説明です。SIEMはログの収集・分析に特化しているのに対し、SOARはさらにその先の「対応」までを自動化・効率化する点が異なります。SOARはSIEMと連携して動作することが多いですが、SOARそのものの説明ではありません。
いかがでしたでしょうか? SOARについて、少しでも理解を深めていただけたなら嬉しいです。
情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストの試験でも、こういった新しい技術に関する知識が問われることがあります。日々の学習に加えて、今回のようなトレンドキーワードもぜひチェックしてみてくださいね!