【情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 春期 午前2 問25】ITに係る全般統制

ITに係る全般統制とは?〜情報システムの土台を支える大切な仕組み〜

今回は、皆さんの学習にも役立つ、ITに係る全般統制について、分かりやすく解説していきたいと思います。ちょっと難しそうに聞こえるかもしれませんが、情報システムの安全性や信頼性を高める上で、とっても大切な考え方なんですよ。


【出典:情報処理安全確保支援士試験 令和6年度 春期 午前2(一部、加工あり)】

 金融庁”財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(令和5年)”における、ITに係る全般統制に該当するものとして、最も適切なものはどれか。

ア アプリケーションプログラムの例外処理(エラー)の修正と再処理
イ 業務別マスタ・データの維持管理
ウ システムの開発、保守に係る管理
エ 入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保する統制

まず、「ITに係る全般統制」という言葉、聞いたことはありますか? 簡単に言うと、情報システムが正確に、安全に、そして安定して動くための「土台」となる管理の仕組みのことです。

私たちの生活に欠かせない電気やガス、水道のインフラをイメージしてみてください。これらが安全に供給されるためには、発電所の適切な管理、送電網の維持、漏洩対策など、さまざまな側面からの管理が必要ですよね。ITシステムも同じで、個々のアプリケーション(特定の業務を行うプログラム)が適切に動作するためには、その背後にあるインフラや運用プロセスがしっかり管理されている必要があるんです。

具体的には、以下のようなものがITに係る全般統制の対象となります。

  • システムの開発・保守管理: 新しいシステムを作る時や、既存のシステムを直す時に、ルール通りに進められているか、テストがしっかり行われているか、といった管理です。
  • 運用・セキュリティ管理: システムが毎日問題なく動いているか、不正アクセスや情報漏洩から守られているか、といった日常的な管理です。
  • アクセス管理: システムを使える人を制限したり、その人がどこまで情報にアクセスできるかをコントロールする管理です。
  • 物理的セキュリティ管理: サーバーが置いてある部屋への入退室管理や、災害対策など、物理的な側面での安全管理です。

これらの統制がしっかり機能することで、情報システムの信頼性が向上し、結果として企業の財務報告の信頼性も担保されるというわけです。

なぜITに係る全般統制が重要になったの?〜背景と経緯〜

ITに係る全般統制がこれほどまでに注目されるようになった背景には、いくつかの大きな流れがあります。

1. ITの普及と企業活動への影響

皆さんもご存知の通り、現代社会においてITは企業活動に不可欠な存在です。販売管理、会計処理、生産管理など、あらゆる業務がITシステムによって支えられています。もし、これらのシステムに不具合があったり、不正に操作されたりすると、企業の経営に甚大な影響を与える可能性がありますよね。

2. 内部統制報告制度(J-SOX法)の導入

特に日本においては、2006年に施行された「金融商品取引法(J-SOX法)」が大きな転換点となりました。この法律では、上場企業に対して、財務報告の信頼性を確保するための内部統制の構築と評価、そしてその報告を義務付けています。

このJ-SOX法において、ITに係る全般統制は「全社的な内部統制」の一部として非常に重要な位置づけとなりました。なぜなら、ITシステムが財務報告の基礎となる情報を生成・処理しているからです。ITに係る全般統制がしっかりしていないと、どんなに優れた業務プロセスがあったとしても、出力される財務情報が信頼できないものになってしまう可能性があるのです。

身近な事例で考えてみよう!

では、ITに係る全般統制がどのように私たちの身近なところで機能しているのか、具体的な事例で見てみましょう。

事例1:オンラインショッピングサイト

皆さんがよく利用するオンラインショッピングサイトを想像してみてください。

  • 開発・保守管理: 新しい機能を追加する際や、バグを修正する際には、開発担当者とテスト担当者が協力し、変更が適切に行われ、既存の機能に影響がないかを確認しています。これがしっかりしていないと、注文した商品と違うものが届いたり、支払い情報が漏洩したりする可能性があります。
  • 運用・セキュリティ管理: サイトが24時間365日安定して稼働するように、サーバーの監視やバックアップが定期的に行われています。また、クレジットカード情報などの個人情報が安全に管理されるよう、高度な暗号化技術やセキュリティ対策が施されています。
  • アクセス管理: ショッピングサイトの管理画面にアクセスできるのは、権限を持つ特定の担当者だけです。顧客の個人情報にアクセスできる人も制限されており、不正な閲覧や操作を防いでいます。

これらのITに係る全般統制が適切に機能しているからこそ、私たちは安心してオンラインショッピングを楽しむことができるのです。

事例2:銀行のATMシステム

ATMでお金を引き出す際も、ITに係る全般統制が働いています。

  • 開発・保守管理: 新しいサービスがATMに追加される際や、システム障害が発生した際の改修は、厳格な手順とテストを経て行われます。もし、この管理がずさんだと、誤った金額が引き出されたり、取引が途中で中断されたりする可能性があります。
  • 運用・セキュリティ管理: ATMが設置されている場所の物理的なセキュリティ対策はもちろん、ネットワークを通じて銀行のシステムと安全に連携できるようなセキュリティ対策が講じられています。
  • アクセス管理: ATMを管理するシステムにアクセスできるのは、限られた銀行員だけです。彼らのアクセスも厳重にログ管理されており、不正な操作がないか常に監視されています。

このように、ITに係る全般統制は、私たちが日々利用する様々なサービスを、安全かつ確実に提供するための基盤となっているのです。

課題と対策、そして今後の動向

ITに係る全般統制は非常に重要ですが、常に課題も存在します。

課題

  • 技術の急速な変化への追随: 新しい技術が次々と登場するため、統制の仕組みも常にアップデートしていく必要があります。特にクラウドサービスの利用が増える中で、どのように統制を効かせるかは大きな課題です。
  • サイバー攻撃の高度化: サイバー攻撃の手法は日々巧妙になっており、既存の対策だけでは不十分になる可能性があります。
  • 人材不足: ITに係る全般統制を適切に理解し、実行できる人材が不足している企業も少なくありません。

対策

  • 継続的なリスク評価と統制の見直し: 最新の脅威や技術動向を踏まえ、定期的にリスク評価を行い、必要な統制を導入・見直していくことが重要です。
  • セキュリティ教育の強化: 従業員全員がセキュリティ意識を持ち、適切な行動がとれるよう、継続的な教育が不可欠です。
  • クラウドセキュリティの専門知識習得: クラウドサービスを利用する際は、その特性を理解し、適切なセキュリティ設定や契約内容の確認を行う必要があります。
  • 外部専門家の活用: 必要に応じて、セキュリティコンサルタントなど外部の専門家の知見を活用することも有効です。

今後の動向

今後は、AIやIoTといった技術の進化が、ITに係る全般統制に新たな視点をもたらすでしょう。

  • AIを活用した異常検知: AIがシステムのログデータを分析し、異常なアクセスや挙動を自動的に検知することで、より迅速な対応が可能になるかもしれません。
  • ブロックチェーンによる透明性の向上: ブロックチェーン技術を活用することで、データの改ざん防止や、システム変更履歴の透明性を高めることが期待されます。

しかし、これらの新しい技術を導入する際にも、それが適切に統制されているかどうかが重要になります。技術の進歩と並行して、統制のあり方も進化させていくことが求められるでしょう。

資格取得に向けてのヒント

情報処理安全確保支援士やネットワークスペシャリストを目指す皆さんにとって、ITに係る全般統制の知識は非常に重要です。

  • 情報処理安全確保支援士: セキュリティ対策を計画・実施する上で、システム全体の信頼性を確保するITに係る全般統制の考え方は必須です。脆弱性管理やアクセス制御など、具体的なセキュリティ対策の裏付けとなる概念として理解を深めましょう。
  • ネットワークスペシャリスト: ネットワークインフラの構築・運用において、ネットワークの可用性、機密性、完全性を確保するための基盤となるのがITに係る全般統制です。特に物理的セキュリティやアクセス管理の重要性を意識して学習を進めると良いでしょう。

単なる用語の暗記ではなく、なぜそれが重要なのか、もし統制が不十分だったらどんなリスクがあるのか、という視点で考えると、より深く理解できるはずです。

問題解説

それでは、いよいよ冒頭の問題を解説していきましょう!


 金融庁”財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(令和5年)”における、ITに係る全般統制に該当するものとして、最も適切なものはどれか。

ア アプリケーションプログラムの例外処理(エラー)の修正と再処理
イ 業務別マスタ・データの維持管理
ウ システムの開発、保守に係る管理
エ 入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保する統制


正解は ウ です。

一つずつ見ていきましょう。

  • ア アプリケーションプログラムの例外処理(エラー)の修正と再処理
    これは、特定のアプリケーションにおけるエラー対応であり、ITに係る「アプリケーション統制」(またはIT業務処理統制)に分類されます。全般的な管理というよりは、個々の業務処理の正確性を確保するための統制です。
  • イ 業務別マスタ・データの維持管理
    これも、特定の業務で使用されるデータの維持管理であり、通常はITに係る「アプリケーション統制」の一部と見なされます。マスタデータの正確性や最新性を確保するための統制です。
  • ウ システムの開発、保守に係る管理
    まさにこれがITに係る全般統制の典型的な例です。システムが適切に開発され、変更が管理され、テストが十分に行われているか、といったシステム全体のライフサイクルにわたる管理を指します。金融庁の実施基準においても、ITに係る全般統制の項目として明記されています。
  • エ 入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保する統制
    これは、データ入力段階での統制であり、ITに係る「アプリケーション統制」に含まれます。例えば、入力値のチェック機能や、二重入力防止機能などがこれに該当します。

まとめると…

ITに係る全般統制は、ITシステム全体を安定かつ安全に稼働させるための「土台」となる管理の仕組みです。一方、アプリケーション統制は、個々の業務処理の正確性や完全性を確保するための統制です。

今回の問題では、「システムの開発、保守に係る管理」が、システム全体の品質と信頼性を確保するための管理活動であり、まさにITに係る全般統制に該当します。

最後に

皆さん、ITに係る全般統制について、少しはイメージが湧きましたでしょうか? 資格試験の勉強だけでなく、実際の業務でも非常に役立つ知識ですので、ぜひこの機会に理解を深めてみてくださいね。


参考情報:

  • 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(令和5年)」
    • この実施基準の「ITに係る内部統制に関する記述」の箇所で、IT全般統制とIT業務処理統制について詳細に説明されています。特に、「ITに係る全般統制の例」として、「システムの開発、保守に係る管理」が挙げられています。